外国人患者の「全ての言語」に翻訳は無理!病院の説明書類を「やさしい日本語」で伝わる形に
はじめに
「同意書が日本語のままで、本当に伝わっているのかわからない」
「説明の書類が多すぎて、一部しか翻訳できていない」
外国人患者さんの受け入れにかかわる医療機関の方から、こうした声を耳にすることがあります。
受付、会計、病棟、救急。どの部署にも「言葉の壁」はありますが、なかでもよく聞くのが、書類の多言語化が追いつかないという悩みです。
この記事では、
- なぜ書類の多言語化は追いつかないのか
- 翻訳の代わりではなく「すき間をうめる」ものとしての、やさしい日本語
- 書き換えのコツと、具体的な例
を、まとめました。
1. 現場で起きていること
医療機関の現場では、たとえばこんなことが起きています。
- 問診票は英語・中国語しかなく、ほかの言語の患者さんの受付に時間がかかる
- 翻訳機はあるが、患者さんが何語を話しているのかわからないと設定ができない
- 同意書や説明書が翻訳されておらず、通訳を通してサインをもらっても、本当に伝わったのか不安
- 多言語の資料を作っても、現場であまり使われない
- 外国人患者さんの対応が、兼務の担当者1人に集中している
書類が足りないことで、受付や説明に時間がかかり、その時間がまた担当者を追いつめる。
そんな流れが見えてきます。
2. なぜ追いつかないのか
理由はシンプルで、「言語の数 × 書類の数」が大きすぎるからです。
来院する患者さんの国籍は、中国、ベトナム、フィリピン、ブラジル、ネパール……と、地域によってさまざまです。
一方で、病院の書類は、問診票、入院案内、同意書、検査の説明、会計のお知らせ、産科の制度説明など、数えきれません。
さらに、
- 制度や院内ルールが変わるたびに、全言語の書類を直す必要がある
- 翻訳を外注すると、費用も時間もかかる
- 翻訳された文章が正しいか、院内でチェックできる人がいない
という問題もあります。「全部の書類を、全部の言語に」は、多くの病院にとって現実的ではありません。
3. 「やさしい日本語版」という選択肢
そこで考えたいのが、やさしい日本語版を1つ用意しておくという方法です。
やさしい日本語とは、むずかしい日本語で困っている人にもわかりやすいように、ことばや文の長さなどを調整した日本語のことです。
日本で暮らしている外国人の方の多くは、少しずつ日本語を学んでいます。
むずかしい書類の日本語は読めなくても、短く、はっきり書かれた日本語なら読める、という方は少なくありません。
やさしい日本語版には、こんなよさがあります。
- 1つ作れば、多くの言語の人に届く可能性がある
(日本語があるていど分かり、翻訳対応言語ではない患者さんにも) - 日本語なので、院内でチェックできる
- 翻訳の「元の文」としても使いやすい
(文がシンプルになるので、機械翻訳の誤訳も減らしやすくなります)
外国人の患者さんだけのものではありません
病院の書類のむずかしさに困っているのは、外国人の患者さんだけではありません。
- 高齢の方
- 病気や障がいがあって、長い文章を読むのがつらい方
- 体調が悪いときや、不安な気持ちでいっぱいのとき
- 患者さんに付きそう家族や、子ども
実際に、やさしい日本語の研修を受けた医療機関の方からも「高齢の方や、障がいのある方とのコミュニケーションにも使える」という感想をいただくことがあります。
だれでも、体調が悪いときや心配ごとがあるときは、ふだんより文章が頭に入りにくくなります。病院は、そんな状態の人がたくさん集まる場所です。
やさしい日本語版は、「外国人の患者さんのための特別な書類」ではなく、すべての患者さんにとって読みやすい書類にもなります。
多言語化の悩みから始めた取り組みが、病院全体の書類を見直すきっかけになるかもしれません。
ただし、正直にお伝えしたいこともあります。
やさしい日本語は、医療通訳や翻訳の代わりではありません。
手術や治療の同意など、患者さんの意思決定にかかわる場面では、医療通訳や、患者さんが理解できる言語への翻訳とあわせて使うことが必要です。
やさしい日本語版は、「翻訳がまだない書類」「翻訳がない言語」のすき間をうめる道具として考えるのがおすすめです。
4. 書き換えのコツ「3S」と例
やさしい日本語に書き換えるときのポイントは、3つのSです。
- Short(短く):1つの文に、1つのことだけ
- Simple(かんたんに):難しいことば、漢語、尊敬語や謙譲語を減らす
- Straight(はっきり):遠回しな言い方をせず、してほしいことをそのまま書く
例を見てみましょう。
例1:入院の持ち物
Before
入院時には、健康保険証、診察券、印鑑をご持参くださいますようお願い申し上げます。
After
入院する日に、次のものを持ってきてください。
・保険証
・診察券(病院のカード)
・はんこ
「ご持参くださいますようお願い申し上げます」は、日本語を学んでいる人には、とても読みにくい表現です。「持ってきてください」とはっきり書き、持ち物は箇条書きにします。
例2:検査の説明
Before
検査結果によっては、追加の検査や処置が必要となる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
After(日本語で読んでもらう用)
検査の 結果が 出た あとで、ほかの 検査や 治療を するかもしれません。
*結果…検査で わかった こと
*治療…けがや 病気を なおすこと
After(翻訳の元の文にする用)
検査の結果を見て、ほかの検査や治療をすることがあります。
「場合がございます」「あらかじめご了承ください」は、なくても意味が伝わります。
ここで、Afterが2つあることに注目してください。
やさしい日本語は、だれが、どう読むかで、ちょうどいいレベルが変わります。
- 日本語のまま読んでもらうなら、文を短くして、ことばの間にスペースを入れ(分かち書き)、むずかしいことばには説明をつけます
- 翻訳の元の文にするなら、意味がきちんと残ることを優先します。
やさしくしすぎると、翻訳したときに大事な情報が抜けてしまうことがあります
また、「結果」「治療」は、日本語が初級レベルくらいの人にはとても難しい言葉です。
しかし、今回は、ほかのことばに言い換えず、説明をつけて残しました。
病院では、患者さんがこれから何度も出会うことばだからです。何度も出会うことばは、言い換えるより、意味を知ってもらうほうが役に立ちます。
(私たちの協会では、文章の目的や読者などを考慮して、やさしい日本語にするのか、あえて、そのままにするのかを検討しながら、やさしい日本語に書き換えています)
例3:お金のお知らせ
Before
健康保険証をご提示いただけない場合、診療費は全額自己負担となります。
After
保険証がないときは、病院のお金を全部、自分で払います。
「こんなにかかるなら先に教えてほしかった」と言われてしまうことも、めずらしくありません。お金のことは、あとでトラブルになりやすいからこそ、はっきり書いておくことが大切です。
5. 時間がない現場のために:やさにちリライト+
とはいえ、「書き換えのコツはわかったけれど、その時間がない」というのが、現場の本音だと思います。
やさにちリライト+ は、文章をやさしい日本語に書き換えるためのAIツールです。
「AIがやさしい日本語を提案し、人間が採用するかどうかを判断する」ということを前提に開発しました。
やさにちリライト+でできること
- 元の文章を入れると、AIがやさしい日本語の案を2つ出します
- やさしさのレベルは2段階から選べます。
①日本語を学びはじめた人向けと、②日本語がある程度わかる人向けです。
上の例2のように、読む人や目的に合わせて使い分けられます - どちらがよいか、どこを直すかは、病院の方が判断します
- やさしい日本語にした文章や、翻訳した文章は、PDFで出力できます。
そのまま印刷して、受付や病棟で配る書類にできます
ゼロから書き換えるより、ずっと短い時間で「たたき台」ができます。
そして、最後に病院の方が目を通すことで、医療の現場にあった文章にできます。
やさしい日本語から、ほかの言語へ
リライト+では、やさしい日本語にした文章を、ほかの言語に翻訳することもできます。
対応しているのは、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、ベトナム語、タガログ語、ネパール語、ポルトガル語、インドネシア語、ミャンマー語、モンゴル語など、20の言語です。
通訳や翻訳サービスが見つかりにくい言語にも対応しています。
先に文をやさしい日本語でシンプルにしてから翻訳するので、むずかしい日本語をそのまま機械翻訳するよりも、意味のずれが起きにくくなります。
さらに、翻訳した文章を日本語にもどす「逆翻訳」で、内容をチェックできます。
外国語が読めなくても、「伝えたいことが、ちゃんと訳されているか」を日本語でたしかめられます。
「翻訳はあるけれど、正しいかどうか院内で確認できない」という悩みにも、ここで答えられます。
ふりがなや分かち書き(ことばの間にスペースを入れる書き方)も、自動でつけられます。
有料プランでは、いまお手元にある文章に、そのままルビ・分かち書きをつけることもできます。
組織で使う場合は、請求書払いに対応したビジネスプランもあります。
まとめ
- 書類の多言語化が追いつかないのは、「言語の数 × 書類の数」が大きすぎるから
- やさしい日本語版を1つ用意すると、翻訳がない書類・言語の「すき間」をうめられる
- やさしい日本語版は、外国人の患者さんだけでなく、日本語の難しさに困っているすべての患者さんの助けになる
- ただし、医療通訳・翻訳の代わりではない。大切な場面ではあわせて使う
- 書き換えのコツは 3S(Short・Simple・Straight)
- 時間がないときは、AIにたたき台を作らせて、人が判断する
まずは、よく使う書類をやさしい日本語にしてみませんか。
無料版でも、やさしい日本語への変換と翻訳がそれぞれ月15回、PDF出力が月3回まで使えます。クレジットカードの登録はいりません。
やさしい日本語について、もっと知りたい方へ
2026年9月に、『いのちを守るやさしい日本語』(ゆまに書房、シリーズ「にほんごをかんがえる」3巻)を刊行しました。
災害や医療など、いのちにかかわる場面で、やさしい日本語がどのように使われているかを紹介する本です。「医療と言葉」の章では、医療通訳や自動翻訳とのつきあい方、病院の取り組みも取り上げています。
中学生向けに書いた本で、やさしい日本語をはじめて知る方にも読みやすい内容です。
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